vsコンビニ

私には夢があった。

 

 

キング牧師風に言うなら"I had a dream."である。といっても彼と比べるのも申し訳なくなるような些細な夢である。が、多くの人には共感してもらえるかもしれない。

 

 

 

それは、コンビニでお酒を買うことだ。

 

 

 

 

コンビニには未成年が近づけない3つの聖域がある。即ち、酒・タバコ・エロ本だ。しかしタバコはレジ裏にあり、エロ本にはあまり興味がないというのもあって、お酒コーナーというのは3つの中でも特に聖域度が高かったのだ。

 

 

しかもお酒コーナーはたいていジュース売り場の隣に置いてある。少し手を伸ばせば容易に触れられるのは分かっていた。しかし決して買えない明確な理由があったのである。それは「年確が怖いから」であった。いくら表情を取り繕ったって、低身長、おどおどした態度から年確を食らうのは目に見えている。未成年でお酒を買おうとしていたのがバレた日には通報・逮捕・退学・一家離散・ホームレス大学生まで想定していた。日大の危機管理学部もビックリのリスクマネジメントである。

 

 

 

話は変わるが、最近のゲームはボスを倒せば終わりではない。むしろボスを倒した後に開けるニューワールドがゲームの核となっている場合も多い。これは多少なりともゲームを触る人間なら首肯していただけるだろう。

 

 

何が言いたいのかわかっただろうか。そう、ジュースしか買えない田野少年にとってお酒コーナーは「成人の壁」というボスを撃破しないと踏み入ることのできないニューワールドだったのである。マジメで賢かった田野少年(要出典)は、二十歳というラスボスを倒す日を今か今かとじっと待ってきたのである。

 

 

 

 

そして決戦の日は訪れた。

 

 

来る7月2日22時30分、バイト帰りだった私は長年の夢を叶えるべく、友人Kと近所のコンビニへと足を踏み入れた。これまではなんの疑いもなくジュース売り場と直行していた。だが今日は違う。私が向かうべきはその奥、お酒コーナーなのだ。武者震いを感じる。足がすくむのを感じる。私は大きく深呼吸をした。頭の中にもう一人の自分を動かす。

 

 

 

━━━━━チューハイを手に取る。レジに置く。カウンターを挟んで対峙するは見慣れた店長だ。きっと彼は目を見開きこちらを凝視してくるだろう。ついこの間までジュースばかり買っていたこの少年、とうとうお酒に手を出してしまったか、そう考えた彼は最強の呪文、「年確」を唱えてくるはずだ。だがここで怯むな男よ。私は予め財布の中に仕込んでおいた学生証を意気揚々と掲げるのだ。ドラえもん悪魔のパスポートのように、あるいは黄門様の印籠のように。

 

 

大丈夫、イメトレはばっちりだ。準備は万端、あとは足を進めるだけだ。高鳴る鼓動を感じながら、私は缶チューハイを取り、おもむろにレジへと向かった。

 

さあ、勝負開始だ━━━。

 

 

 

 

 

 

 

店長「○○円でぇ~す」

店長「画面タッチおねしゃ~す」

店長「カードとお釣りのお返しで~すありゃした~~~」

 

 

 

店出たぼく「いや年確せんのかいっ!!!!!!!!!!!」

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おしまい